天心庵

先ほどの露天風呂から上がるとすぐそばにある天心庵でしばし休息です。ずっと前にはここにはお茶を立ててくれる方がいらっしゃいました。今はセルフサービ スで自分でポットからお湯をとり、ティーバッグを入れてお茶をいただきます。

この茶室「天心庵」は、鳥取の田舎のお家を移築して作った話をお聞きしまし た。屋根には苔が生して、とても落ち着く部屋です。

ときどき手入れをしている様子をみます。垣根に使う柴は、山から取ってきて、のこぎりで寸法を揃え、垣 根として紐縄でひとつひとつ縛り付けていました。「天心」の由来は、松葉博雄が考えるに、たぶん宮本武蔵の天心一刀流からきているのではないかと思います。

なぜ宮本武蔵かといえば、この辺りは昔の名前で美作(みまさか)といい、称して作州(さくしゅう)と呼ばれていました。

宮本武蔵の映画を見れば、彼はいつもこう言います。「作州浪人、宮本武蔵でござる」それで、郷土の代表宮本武蔵の剣術である天心一刀流から「天心」をとったのではないでしょうか。部屋の中に入ってお茶を一服いただきます。

湯上りの後の清々しい気持ちに、さらに新緑の艶やかさがマッチしています。遥か向こうを見れば、湯の郷である湯郷の街が見えます。もっとしっかり見ようと思い、縁側のふちに立って、湯郷の街を見渡しました。

もう少しすると5月になり、さらに燃えるような新緑の若葉が山の衣を一新する頃となります。 小堀遠州が作った茶室をイメージしたのか、すぐそばには、鹿おどしの筧の水が引かれています。

部屋の中を見渡せば、古ければなんでもいいと思ったのか、茶室のわび・さびとはかけ離れた、キャッシュボックス、銭箱がありました。

茶室に入れば、亭主と客は対等で、世俗の秩序を離れお茶の世界へ入っていくのですが、目の前に銭箱を置かれると、またまた浮世に戻ってしまいそうです。昔のお金持ちは、小判や銀が集まるとこのような箱に入れて鍵をかけていたんでしょうか。

時代劇では、千両箱を担いで屋根から屋根へ跳び回る泥棒のねずみ小僧次郎吉の映画を見たことがありますが、とてもこれを担いで屋根から屋根へといくわけにはいきません。

湯郷温泉は、1200年前に見つけられたと言われている古い温泉です。街の中心から少し高台にある、このたつみ山荘天心庵から見ると、中国地方の山々が見られます。ここで一時の安らぎを得ることは、とても楽しいことです。