神戸ホスピタリティ都市構想シンポジウム 第5回研究会
ひょうごボランタリープラザ・セミナー室(神戸クリスタルタワー10F)にて(2005年5月16日)
今日の神戸ホスピタリティ都市構想シンポジウムの発表は、社会福祉法人尼崎老人福祉会理事長市川禮子先生の発表です。
医療産業都市構想では、福祉の分野に対する取り組みも大切です。病気がどうしても完全には治らない、あるいは後遺症が残ってしまうような場合には、ケアや介護といった福祉が重要になります。
今日発表される市川禮子先生は、福祉文化学会に所属しておられます。法人理念はノーマライゼーションです。これの意味は、地域の中で一人の生活者として暮らしを築くということが基本になります。
この考えはデンマークで生まれた理念です。
知的障害者の施設は第二の収容所になってはいけない、という考え方です。福祉は戦争との対極にある概念で、戦争の時には福祉なんてものはかまわれないということになります。
この中で、人権というものも強く意識されています。
人権は、人間の尊厳を守る、プライバシーの保持をする市民的自由、社会参加の尊重、というこの3つが福祉施設の中でも一般社会と同じようなレベルに持っていこうという考え方です。
民主的運営の具体化としては、地域とともにということが一つの考えになります。
たとえばカギをかけないで認知障の方をお世話をする。外出は自由であるというようなことです。職員がその方の過去の人生を外出先で知ることが出来ます。
今痴呆症になっている方でも、過去には素晴らしい事をしていたことが、外出先でお世話をする人が初めて知ったこともあるそうです。
特養の建設基準も2003年から変わりました。個室による少人数で生活をする形に変わってきます。
これは、ハード面から人権を守ろうという考え方の現われです。
実際にこのような個室を中心とした施設によって自立する例が出てきたことが報告されています。
知的障害、精神障害、認知障害などのお互いの方が助け合って自分が出来ることをする、という事例を発表されました。
福祉は文化であり、決して障害者だからといって幼児扱いをしてはいけません。たとえば言葉もきちっと敬語を使う。大人として社会人として扱うということになります。
建築基準についても設計コンセプトが変わってきています。
これまでが生命力をしぼませる施設作りであったことに対して、今は、地域に住む生活者として、すべて私たちの一般の生活と同じように考えていくということが基本になっています。
このように住居としてのハード面が変わると生活が変わってきます。
これまでの施設の考え方から住宅へと考え方の切り替わりです。パラダイムの変化です。
一つの例としては、認知障の人たちで役員会を運営しているという事例がありました。以前ならなかなかありえなかったことです。
アルツハイマーの人の会議で言われたことは、「私は私になっていく」ということです。
認知障中心のケアを行っていくことで実現されます。以前ピアノを教えていた方が認知障になっていしまいました。
しかし90歳以上になってピアノを弾いた。左手が不自由なので、右手だけで二人で演奏した報告をスライドショーで見せていただきました。とても感動的なスライドでした。
今日の神戸ホスピタリティ都市構想シンポジウムの2つめの発表は、「ホスピタリティのあるまちづくり」について、大林組企画部の沢田裕美子さんの発表もありました。
最後に、安室憲一教授のまとめがあります。
ソフトとハードはお互いに融合しなければいけないということがわかりました。
何故人間にあったシステムを作ってこなかったんだろうという素朴な疑問が湧いたようです。
これまではシステムにルールに人が合わせるように求められていた。しかしこれからは人に合わせる時代が来ているのです。
専門職がつくるシステムというのは自分達の方に利用者が合わせてほしいということになり、これでは収容所をゲットーになってしまうということになります。
これまでの大量生産、規模の経済というのは、実のところは貧しさの反映なんじゃないかと言われます。豊かな社会、個人に合わせて社会を作る。オーダーメイドのものを作る。このためにやはりハード面からが大切であることがわかったことになります。
やはり施設を作る裏には、思想の問題があって、施設を運営するソフトとマッチングしていないといけない。人を幸せにするには、思想を反映するということになります。
ホスピタリティの源というのは、昔、ヨーロッパで巡礼をする人が、食べるものをもらいながら求道の旅を続けていました。そこから、求道者に温かい支援をする「ホスピタリティ」が自然に芽生えてきたようです。
そこから発展して、現代では、人生の旅の最後をおもてなししていただくことというふうに概念が発展してきています。
人間には一人一人の個性があります。マス・サイズで考えるケアから、個々の個性に合わせたケアを行っていく。ホスピタリティとしてのモデルを提案したいと安室先生は締めくくられました。
この研究会では、医療産業都市構想に対して、これまでの考え方を人間に合わせたシステムを作るように提言したいと言われました。