学歴社会に見られる二つの意見:博士号は増やすべきか、制限するべきか、入り口と出口で意見が対立しています

朝日新聞朝刊の「あしたを考える」のページの「新学歴社会・選択のとき」のコーナーに、「就職漂流 博士の末は」という記事が掲載されていました。

学歴社会の頂点であるはずの博士のその後は、必ずしも明るくないそうで、就職率は約6割に過ぎず、理系に多いポスドク(ポストドクター:任期付きの博士研究員)や、文系に多い専業の非常勤講師という、不安定な立場にある人が、それぞれ約1万5千人、約2万6千人にのぼっています。

さらに、それらにすら就けずに、フリーター化している博士は数倍いると言われており、「高学歴ワーキングプア」は、もはや珍しくない状況です。

就職漂流 博士の末は
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このような事態になった最大の理由は、国が1991年から10年間で大学院生を倍増化する計画を推進し、多方面で活躍できる高い専門知識や能力を備えた人材を育てようとして、「入り口」を増やしたからのようです。

ところが、「出口」の就職先が広がらず、大学の教員や公的研究機関の研究職の数は減少傾向になり、企業への就職者数も少なくなりました。

「専門能力は高いものの、他の分野の知識やコミュニケーション能力が不足している場合が多い」というのが、企業側の理由のようです。

電気通信大学の梶尾誠学長は、「企業は博士がいらないから採用しないのではなく、博士の中身を変えるべきだ」と話しています。

対応として、博士課程の定員削減があげられています。これに対して、「国力低下につながる」といった意見もあり、コンサルタント会社「ヒューチャーラボラトリ」の橋本昌隆社長も「博士は今の半分ぐらいでいい。国が戦略を立てて分野を選んで減らせば、国力低下にはつながらない」と言っています。

これに対して、ノーベル化学賞の受賞者でもある、野依良治・理化学研究所理事長は、「グローバルな知識基盤社会に日本が生き残るためには、十分な質を持つ博士が今以上に必要」と反論しています。

永山賀久・国立大学法人支援課長は、「博士は国際的にみれば、圧倒的に足りない。就職出来ない人がいるから減らすというのは、国全体としてみれば間違いだ」と言っています。

元日本物理学会理事の高部英明・大阪大教授が、「社会の多方面で活躍できる人材を育てるために博士を増やしたのに、それに対応できなかった大学に最大の責任がある。もし大学が変わらないなら、博士を減らす以外にない」と言うように、意見は二分されている状況です。

2009年1月18日(日)