投稿:宝永山登山 Part2
山頂目指して、すり鉢の内側を登っていきます。
思いのほか大変なのは、地面が溶岩性の小さな石で、とても歩きにくくなっているからです。
一歩足を前に出しても、ズルっと滑って半歩下がってしまいます。まるでアリ地獄のようでした。
日頃、運動不足の母は、3歩進んでは立ち止まり、肩で息を大きく吸って、また3歩進んでは立ち止まりと、やっとの思いで登っていきます。
僕はといえば、実家に帰省して山登りに行くとは思っていなかったので、普通のスニーカーを履いて行ったのが失敗でした。
足首まできっちりサポートしてくれるトレッキングシューズを履いていれば、もうちょっとは歩きやすいだろうにと、なかなか進まない足取りを靴のせいにしてみたくもなりました。黄色いスニーカーが溶岩で真っ黒になってしまいました。
登り始めると、空模様が安定しきれいな青空が広がりました。真夏だというのに、まるで秋のような雲が頭上を通り過ぎていきます。
やっとの思いですり鉢を登りつめて、尾根に出ました。尾根沿いに10分も歩くと宝永山の山頂になります。
すり鉢の内側は、この尾根にさえぎられて穏やかでしたが、尾根に出たとたん激しい風が体に吹き付けました。
雲の合間から、富士山の山頂が見えます。ここから見るとすぐにでも山頂に届きそうですが、一度山頂まで登ったことのある父いわく、「見えていてもなかなか近づかない。かえって見えるだけにイライラしてしまう」そうです。
宝永山の山頂に着くと、とたんに晴れ間が広がりました。
眼下には雲が広がり、「あーたまを雲の上に出し」の歌を思い出しました。
そう、僕たちは雲の上にいるのです。なんて気分がいいのでしょうか。アリ地獄や強風にへこたれそうだった心も一気に晴れ上がりました。
ここしばらく仕事の忙しさに追われていた父もすっかりリフレッシュしたようでした。
雲の上は気分はいいのですが、帰ってからが大変です。
すさまじい日焼けに顔も手も真っ赤になってしまいました。遮る空気が少ないので紫外線がすさまじいのです。
日頃当たり前に存在する空気のありがたみを体感しました。
父と母はちゃんと登山用のズボンを履いていたのでいいのですが、僕は短パンだったので膝から下も真っ赤になりました。
久しぶりの山登りに気をよくした父は、風呂上りのビールを勢いよく飲み、腕時計の日焼けの跡もわからなくなるくらいに、真っ赤になっていました。
母は、しばらく筋肉痛のため、2階の寝室へ上がる階段もひぃひぃ言っていました。