秋になると夜が長くなり、松葉博雄も少し本を読んで勉強する意欲が湧いてきました。
腰が痛くなることもあり、椅子に座って机に向かう場合と、座椅子に座って低い机に向かう場合があります。
今夜は座椅子で本を読んでいると、いつのまにかりんりんは顔で部屋のドアの隙間を開け、そっと机の向かいの布団の上に寝そべって勉強の具合をじっと見つめています。
気になって少し読んではりんりんの方を見て、また本に目を移す、の繰り返しです。
りんりんは横目で「ちゃんと勉強してますか?」と、監督の目をそらしません。
とうとう机を離れ、そっとカメラを取り出し、りんりんのシャッターチャンスを伺います。りんりんも少しずつ体勢を入れ替え、常に正面から見えるように監視しています。
深く考えてみました。何故今夜りんりんは私を監視するのか。少しわかりかけました。
今夜は私一人だけが家に居て、普段りんりんが頼りにしている人がいないからではないでしょうか。りんりんは次に誰に頼ればよいのかを判断して、私がもしりんりんを置いて去らないようにじっと見つめているのではないでしょうか。
そう思えば、りんりんは私を頼りにしているのだなぁと納得しました。きっとりんりんはあなただけを想っています。私はあなただけが頼りなのです、と言っているように見えます。
ところが、一転してシチュエーションは変わります。それはオーナーのお姉ちゃんが帰宅したからです。
先ほどのりんりんの目にはもう松葉博雄は映っていません。お姉ちゃんのそばに行って体を預けるように甘えています。
もう嬉しくて嬉しくて、尻尾を振りながら頬を摺り寄せてラブラブ状態です。
もしこれが人の間で繰り広げられるとすればどうでしょうか。
Aさんにあなたが大好きと言いながら、Bさんが来ると早速Bさんこそ大好きとAさんの前で態度をとれば、きっとAさんとBさんはヤキモチの末、大喧嘩となるのではないでしょうか。
りんりんの世渡りの上手さは、このヤキモチを焼かさせないことです。AさんもBさんも決してりんりんを巡っての刃傷沙汰にはなりません。