メルスプラン発足15周年を記念して、メルスプランの研究論文を紹介します。

メルスプランの事業の仕組みを競争優位を得る二つのレベルの差別化で分析しました。 メニコン メルスプラン/メルス創業記念日/ほうらく饅頭

メニコンのメルスプランは、2001年から始まり、2016年3月で満15周年を迎えています。

これを記念して加盟店のさんプラザコンタクトレンズでは、メルスの会員様に創業記念の紅白饅頭をお配りしました。

松葉博雄は、大阪市立大学大学院でメルスプランの研究をし、論文にまとめましたので、その一部をご紹介します。

1.1. 事業の仕組みの再定義

新しい事業システムであるメルスプランとは、定額会員制システムによるコンタクトレンズの販売方法である。

ユーザーは入会金と毎月定額の会費を支払う。会員は一定の会費を負担することにより、不測の場合の金銭的な負担を抑えつつ、コンタクトレンズの補充や交換等の無料提供を受けられる、という安心が得られる。


図6 メルスプランの具体的な処理態様

「メルスプラン」は事業の変革であり、事業システムの組み替えであるから、事業の定義として
①「顧客は誰か」、
②「顧客は何を買うか」、
③「どのように提供するか」
を事業の仕組みとして再定義しなければならない。
メニコンは事業の再定義に当たり、使い捨てレンズの普及とともに眼障害の増加が報告されていること(渡邉・植田・糸井,1997)に着目した。
メニコンは、使い捨てレンズの事業システムから生じる眼障害の多発に対して、
(1)使用上の危険性の告知・注意喚起、
(2)定期検査による安全管理、
(3)購入ルートと治療ルートの一致、という3点に留意して同社の事業の再定義を行った。

つまり、①顧客層は過度な価格競争に陥った旧来からの取引先と、コンタクトレンズの安全性を求めるユーザーである。
②視力矯正を事業目的とし、高度管理医療機器としての安全管理を伴ったサービスの提供が基本である。
③眼科医師の判断に基づくコンタクトレンズの交換、取り替えを行うことでユーザーに安全性を提供する。これらの事業コンセプトは、商品の販売方法から、継続的にユーザをモニタリングし医療性と安全性を重視する、サービスの利用を販売する顧客志向の視点から再定義したものといえる。

1.2. 競争優位を得る2つのレベルの差別化

1.2.1. 商品・サービスの差別化事例企業はどのようにしてあらたな経営戦略を築き、あらたな顧客満足を得られたのであろうか。
この点を検証するため、使い捨てレンズの事業システムとメルスプランの事業システムを分析し、加護野(1999)の定義に従い、2つのレベルの差別化の視点で対比した。

表4 競争優位をえる2つのレベルの差別化の視点からの2つの事業システムの対比

出所:加護野(1999),表1を参照し、使い捨てレンズ大手3社(J&J、CIBA、B&L)とメニコンへのインタビュー結果から筆者作成注1:資源の利用方法としての販売方法、注2:仕組みの特徴としての医療の営利性と非営利性
商品・サービスの差別化のレベルを経営資源の利用方法としての「販売方法」の違いの視点から分析する。
使い捨てレンズの商品・サービスの差別化は、
(a)低価格、
(b)規格データがシンプル、
(c)使い勝手が良いという、破壊的イノベーション(Christensen,2000)
の特徴を備えた商品としてのコンタクトレンズの販売方法である。
メルスプランの商品・サービスの差別化は、眼科のネットワークで相互利用可能な定額会員制の販売方法である。
2つの事業システムの商品・サービスの差別化を「販売方法」という共通の概念から仕分けすると、商品に形がある販売方法(使い捨てレンズの事業システム)と、商品に形がないサービスの利用の販売方法(メルスプランの事業システム)とに仕分けされる。
使い捨てレンズは1枚当たりの価格が低価格で、1枚のレンズを2~3年使用する従来のハードレンズ及びソフトレンズに比べると非常に短い期間で交換するレンズである。
一般的に使い捨てレンズと呼ばれるように、一定期間使用したら使い捨てるという使い方をする商品である。
このような低価格と使用方法を特徴とする使い捨てレンズが普及することにより、ユーザーの医療機器としての認識の低下を招き、「安さ」「便利さ」を優先する日用品感覚でコンタクトが取り扱われるようになった。
このようにメーカは営利性を重視し、低価格の商品を短期間で提供することが、使い捨てレンズの事業システムの特徴となっている。

これに対してメルスプランの商品・サービスの差別化は、使い捨てレンズの事業システムの特徴である大量販売・大量消費がもたらす価格競争を回避するための差別化を意図し、固定価格(定額会費制)としている。
大量販売との差別化は、コンタクトレンズが高度管理医療機器であると認識させることであり、医師の判断を加えることによりサービスの付加価値を高め高価格を可能としている。
また、会員制サービスとして、コンタクトレンズの破損や劣化、異物付着などにより装用が不可能となった際は無料交換ができ、紛失時には購入価格の1/3程度の負担で再購入できる。
さらに、会員は全国にまたがる加盟店を選ぶことが出来るので、ある店舗でのサービスの不満時や、転居時の加盟店の変更、移動先などでの緊急時にも最寄りの加盟店の利用が可能である。
このように、メルスプランによってメニコンは、従来のレンズの「売り切り販売」から会員制組織による「サービスの提供」へと事業の中核を大きく変化させた。
顧客満足をえるための2つのレベルの差別化という経営戦略策定のダイナミクスを捉えた(表4)。

1.2.2. 事業の仕組みの差別化

事業の仕組みの差別化のレベルを特徴としての「医療性」の視点から分析する(表4参照)。
使い捨てレンズの事業の仕組みレベルの「医療性」には営利性追求の姿勢がうかがえる。
高度管理医療機器の「医療性」は、医療機器を販売し健康保険診療報酬を得るシステムに変質している。使い捨てレンズ事業には3ヶ月に一度の購入機会があり、その都度、眼科検査を受診する際に支払われる検査料が販売企業の価格競争を補填する原資となるような仕組みとなっている。
検査料の30%はユーザの自己負担で、70%は健康保険医療報酬への請求で賄われている。
使い捨てレンズが普及した結果、健康保険請求額も比例して膨らみ、医療費の負担に耐えられなくなった厚生労働省は制度の見直しを促している。
制度分析からみれば、使い捨てレンズの急速な普及の背景には、健康保険医療報酬の補填による「過度な」価格競争があったことが指摘できる。
メルスプランの事業の仕組みレベルの差別化を特徴として「医療性」の違いの視点から仕分けすると、メルスプランの事業の仕組みレベルの「医療性」には非営利性の安全性追求の姿勢となっている。
全国の主要取引先が加盟店としてメルスプランに参加し、メニコンの直営店も含めた全国的な眼科のネットワークを構築し戦略グループを形成している。
アフターサービスの仕組みとしては、アフターサービスのために顧客の情報を収集し、コンタクトレンズの提供や交換など、個々の顧客とのすべてのやり取りを一貫して管理し、履歴として加盟店に提供しているという点で、顧客関係性を重視する志向の事業の仕組みの差別化である。
コンタクトレンズが高度管理医療機器であると認識することであり、医師の判断を加えることにより安全性志向としている。具体的には眼科専門医との連携を前提としている。
会員は使用上の危険性の告知、注意喚起を受けられ、定期検査による安全管理が呼びかけられている。
購入ルートと治療ルートの一致は、障害時でのホーム・ドクターの役割を果たしている。
2つの事業システムの事業の仕組みの差別化を「医療性」という共通の概念から仕分けすると、医療の営利性重視への移行(使い捨てレンズの事業システム)と、非営利性に基づく安全性重視(メルスプランの事業システム)とに仕分けされる。

事業の仕組みの差別化に関して、加護野(1999)は、
①商品やサービスの開発のための要素技術をうまく使う仕組み、
②部品や原材料の調達の仕組み、
③生産の仕組み、④販売と流通・物流の仕組み、
⑤アフターサービスの仕組みなどをベースにした、5つの事業の仕組みの差別化を指摘している。
メルスプランの事業の仕組みでは、既存の内部資源をうまく活用している。
①の仕組みとして、1950年代から培った組織と人員、開発技術、などの内部資源の有効活用が挙げられる。内部資源の組み合わせは他社による模倣困難性を有している。
②の仕組みとして、既存の部品や原材料の調達の仕組みが生かされている。
製造する商品はこれまでのコンタクトレンズと何ら変わりはない。
③の仕組みとしては、定額会員制システムとしたことで計画的な生産が可能になった点が挙げられる。
これまでの「いくらで売るか」という視点ではなく、会費収入に合わせたコスト管理を求める「原価企画」の思考が背景にある。④の仕組みとしては、全国の主要取引先が加盟店としてメルスプランに参加し、メニコンの直営店も含めた全国的な販売網を構築し戦略グループを形成している。
IT技術を活用し、インターネットでの物流管理も行っている。
ファイナンス会社の課金システムを部品の一部として調達し、メニコンが今まで持っていなかった課金システムが補完されている。⑤の仕組みとしては、アフターサービスのために顧客の情報を収集し、コンタクトレンズの提供や交換が生じた日時や商品等、個々の顧客とのすべてのやり取りを一貫して管理し、履歴として加盟店に提供しているという点で、顧客関係性を重視する志向の事業の仕組みの差別化である。
このように、事業の仕組みの差別化を築いていく企業行動に、経営戦略策定のダイナミクスを捉えた。

1.3.  2つのレベルの差別化による参入障壁の構築

以上のように、メニコンは、競争劣位を挽回するためにコンタクトレンズの商品特性(医療機器・安全性)に着目し、事業の仕組みレベルでの差別化を図り、使い捨てレンズの事業システムに対抗した。
メニコンはコンタクトレンズをユーザーに提供する加盟店を選定するなどして、ユーザーに対する診察やコンタクトレンズの適合を行なう能力となる医療水準を一定以上に担保し、使い捨てレンズの事業システムとの間にサービスの差別化を実現している。
このような医療性を重視した顧客との関係性構築における差別化は、使い捨てレンズを大量販売している量販店やインターネットなどの通信販売といった事業の仕組みに対する差別化となり、2つのレベルの差別化によって参入障壁を築いている。メルスプラン加盟店の看板・標識等の表示は、ユーザーには一定以上の医療水準を備えた施設であることが「見える」商品・サービスの差別化である。

2016年3月1日(火)